」の一環として、本来の姿に組み立てられた中近笠鉾が提灯、ぼんぼり、万灯に火をともし、小雨交じりの空の下、大勢の人々が見守る中を駅前通りを往復しました。
翌28日午前10時、秩父駅前を出発した中近笠鉾は、実に87年ぶりに旧秩父往還を往時の姿で巡行し、沿道につめかけた人々に深い感銘を与えました。巡行の動画は→こちら
【はみ出しメモ】
下の写真は2枚とも12月3日の朝、収蔵庫の前で出発を待つ中近笠鉾です。
左は平成16年、右は17年。いずれも12月3日朝7時20分前後、ほぼ同時刻に撮影した写真です。
平成16年の時点(左)で中近笠鉾の順路を覆っていた電線類が、平成17年(右)には消えたことがわかります。
笠鉾復活の日が意外に近いかも知れません。
5.秩父屋台囃子の継承
中近笠鉾が例大祭に登場した時代から今日まで、12月3日の例大祭の当日、中近笠鉾の中で屋台囃子を演奏し、また、三百年の伝統を有する屋台行事の一つとして、中近における屋台囃子を今日まで継承してきたのが、「中近屋台囃子保存会」です。
なお、「中近屋台囃子保存会」は、中近町会が行う例大祭の屋台行事において秩父屋台囃子の演奏を担当してきたものであり、町会から独立した団体でも、中近笠鉾の曳行と無関係の演奏団体でもありません。また、組織の形態は、江戸時代からの自然発生的なものが今日まで続いており、厳格な組織ではありません。
保存会のメンバーは、中村町会及び近戸町会の構成世帯の男子ですが、長男であること等の制限は特になく、親子、兄弟での参加者も多くみられるなど、家系的な傾向もみられます。
中近での屋台囃子の練習(「ならし」といいます。)は祭礼前の毎年11月25日から30日までの6日間、中村町屋台囃子練習場(27日のみ近戸町公会堂)を会場に夜7時から10時まで行われます。途中、8時半から9時過ぎまで休憩を入れ、小豆粥を食べる風習を現在も守っています。
屋台囃子の伝承には、手本や定型といったものがなく、楽譜やいわゆるジゴト(口唱歌)は使われず、実際の演奏に直に接しながら行われています。
子供達は、大人の演奏を聞き、自分も実際に演奏しながら、屋台囃子を体得し、また、他の演奏者から自分の気に入ったところを取り入れて、徐々に自分自身の秩父屋台囃子をつくっていきます。
中近では過去において屋台囃子の伝承が途絶えたことは一度もなく、また、現在も多くの子供達の参加が見られ、後継者不足の兆しは全くありません。
【はみ出しメモ】
中近の秩父屋台囃子の担い手は、現在、中村町、近戸町の全域から参加しています。しかし、昭和30年代まで、屋台囃子の担い手の多くは、ごく限られた狭い区域の世帯に集中していました。
それは、かつて中村の「上平(「うえだいら」)」と呼ばれた区域、現在の住居表示で概ね中村町一丁目に当たる区域にある特定の世帯から親子、兄弟が屋台囃子に参加していました。
主な家を挙げると、石川、武島※、中村※、大澤〔シンヤ〕※、井上〔オンタケ〕、大澤、新井〔ツジ〕※、浅見※、高橋※、嶋ア、岡島などです(〔 〕内は屋号)。このうち、井上、岡島が笛を、その他が太鼓を担当していました。また、この区域の外では、井上(寿助)※、小池、近戸の柴岡などの家が太鼓を担当していました(以上敬称略)。
昭和40年代以降、こうした閉鎖的な家系的集団の性格は薄れ、町会の構成員に開かれた伝承団体へと変わっていきました。
※印は昭和初年以降、太鼓長を務めた家です。注目すべきは同じ家から複数の太鼓長が出ていないことです。中近は伝統的に太鼓長の世襲を排除してきたと考えられます。
6.秩父屋台囃子の演奏
屋台囃子に使用する楽器の編成は、中近の場合、大太鼓(長胴太鼓 2尺)1、小太鼓(附締太鼓 3丁掛)4、鉦(摺鉦 直径17cm)1、笛(篠笛 7穴2本調子又は3本調子)1です。
祭礼当日の笠鉾内の楽器の配置は、大太鼓を、笠鉾前方の登勾欄の裏側の空間に麻綱で吊りこみ、小太鼓は、4個が床に水平になるように、木枠に固定し、笠鉾の後方に縦1列に設置します。太鼓の設置作業は「太鼓吊り」といい、大祭前日の12月2日の午後行われます。
笠鉾の中には、常時18人前後が乗り込んで屋台囃子を演奏します。
屋台囃子の曲目は、笠鉾が前進する時、大太鼓によって絶え間なく演奏される「屋台囃子」(中近では単に「大太鼓」といいます。)と、笠鉾の方向転換の時だけ小太鼓によって演奏される「玉入れ」の2種類です。
屋台囃子の演奏は、小太鼓が4打のリズムを刻み、これが他の楽器の基本リズムとなります。演奏のリ−ドは、終始大太鼓が行い、これに合わせて鉦と笛が演奏されます。小太鼓の演奏は4人同時に行い、大太鼓の演奏は1人で行い、2、3分で次々と交代します。
屋台囃子の奏法は、屋台町ごとに特徴がみられますが、特に、中近では、大太鼓の演奏者の独奏的な要素が強く、それぞれの叩き手は、自分自身の屋台囃子を即興的に組み立てて、個性豊かな演奏を行います。
このため、笠鉾の中で屋台囃子を演奏する様子は、腰幕や彫刻などにさえぎられて外から見ることはできませんが、大太鼓の音を聞くだけで、誰が叩いているのか、演奏者同士で識別できるのです。